LIFESTYLE
きょうは本屋に寄って帰ろう/Vol.18(選者:木村綾子さん)
2024.12.26
本を愛するあの人が、ルミネのシーズンテーマを切り口におすすめの本を紹介するこの企画。今回は「年末年始に読みたい本」をテーマとした特別編です。オンライン書店&出版社「COTOGOTOBOOKS(コトゴトブックス)」の代表であり、文筆家でもある木村綾子さんに、時間のあるお休み中にじっくり読みたい本、新しい年の始まりに読みたい本という視点でとっておきの2冊をセレクトしてもらいました。
『日日雑記』著:武田百合子(中央公論新社)
冬は夏より音が遠くまで届くといいます。
いつもより街が静かになるお正月。新年のはじめには、目で聞く音(=文字)にも、すすがれたような美しさを求めてしまうものです。
〈元旦。起きて外見る。人の姿車の影なし。また眠る。起きて外見る。人の姿車の影なし。また眠る。〉
『富士日記』や『犬が星見た』などで知られる武田百合子さんの遺作となったこのエッセイ集は、迎えた新年を静かにつまびらかに観察するところから始まります。
新聞の折込広告の文面や、銀座、代々木公園、新宿伊勢丹、歌舞伎座。観た映画のタイトルや食堂の品書き、市場に並ぶモノの値段まで…。
その眼差しは鋭敏で精確で対象に媚びないさっぱりとしたところがあって、そういうところに私はとても憧れているのですが、何の因果か、晩年彼女は視力を失っていってしまう。本作中でも、見たものの羅列のあとに「眼がよくなりますように」という言葉が祈りのように置かれて、胸を突かれます。
目で見て感じたことを言葉にできる喜びと奇跡を思いつつ、2025年のはじめにも、私はこの本を手に取るのだと思います。
いつもより街が静かになるお正月。新年のはじめには、目で聞く音(=文字)にも、すすがれたような美しさを求めてしまうものです。
〈元旦。起きて外見る。人の姿車の影なし。また眠る。起きて外見る。人の姿車の影なし。また眠る。〉
『富士日記』や『犬が星見た』などで知られる武田百合子さんの遺作となったこのエッセイ集は、迎えた新年を静かにつまびらかに観察するところから始まります。
新聞の折込広告の文面や、銀座、代々木公園、新宿伊勢丹、歌舞伎座。観た映画のタイトルや食堂の品書き、市場に並ぶモノの値段まで…。
その眼差しは鋭敏で精確で対象に媚びないさっぱりとしたところがあって、そういうところに私はとても憧れているのですが、何の因果か、晩年彼女は視力を失っていってしまう。本作中でも、見たものの羅列のあとに「眼がよくなりますように」という言葉が祈りのように置かれて、胸を突かれます。
目で見て感じたことを言葉にできる喜びと奇跡を思いつつ、2025年のはじめにも、私はこの本を手に取るのだと思います。
『東京の生活史』編:岸 政彦(筑摩書房)
YouTubeの「街録ch〜あなたの人生、教えて下さい〜」にハマっていて、すっかり隙間時間のお供です。
街ゆく人に声を掛け、その人が歩んできた人生を語ってもらういわばオーラルヒストリーショーなのですが、「本にもあるんですよ!」と声を大にして言いたくなったのがこれ、『東京の生活史』。
150人が語り、150人が聞く。本書は、東京を生きる人たちの人生がインタビュー形式でまとめられた、1000ページ超のボリュームが圧巻のノンフィクションです。
〈俺、いまね、恋してんだ〉
〈どうしようもなくなるとね、花をね、がっさり買ってきた〉
〈もう何百人目かの俺なわけですよ〉
〈……「帰って来て?」それで、帰って来て、何をする?〉
〈「の」。それから「は」「に」「る」。いちばん出ないようなやつは「ゐ」。あんなのめったに出ない〉
〈ドラマチックはずっと続いているわね〉
サムネイルのようにずらりと並んだフレーズのなかから、気になる人のインタビューにアクセスする。垣間見するようなドキドキ感がたまらない。
しゃべりのクセもそのままに、敢えて統一していない文体や、説明もなく突然出てくる固有名詞に、街なかから聞こえてくる雑談を盗み聞いているような刹那を感じて良くて、読んでいて賑やかな気持ちにもなります。
冬は夏より音が遠くまで届くといいます(二回目)。
いつもより街が静かな年末年始。たとえば、家族が寝た後に、パチリと目が覚めてしまった夜半に、起きそこねてしまったいつもより遅い朝に…。
スマホではなく本をひらいて、人の声を遠くに聞くように時間を過ごしたい一冊。
読んだ後には、しばらくぶりの旧友に、「これまでどうしてた?」なんて人生を聞いてみたくなるとも思うので、年賀状や新年の挨拶LINEなどで交友が再開するこの時期の読書にもうってつけだと思いますよ。
街ゆく人に声を掛け、その人が歩んできた人生を語ってもらういわばオーラルヒストリーショーなのですが、「本にもあるんですよ!」と声を大にして言いたくなったのがこれ、『東京の生活史』。
150人が語り、150人が聞く。本書は、東京を生きる人たちの人生がインタビュー形式でまとめられた、1000ページ超のボリュームが圧巻のノンフィクションです。
〈俺、いまね、恋してんだ〉
〈どうしようもなくなるとね、花をね、がっさり買ってきた〉
〈もう何百人目かの俺なわけですよ〉
〈……「帰って来て?」それで、帰って来て、何をする?〉
〈「の」。それから「は」「に」「る」。いちばん出ないようなやつは「ゐ」。あんなのめったに出ない〉
〈ドラマチックはずっと続いているわね〉
サムネイルのようにずらりと並んだフレーズのなかから、気になる人のインタビューにアクセスする。垣間見するようなドキドキ感がたまらない。
しゃべりのクセもそのままに、敢えて統一していない文体や、説明もなく突然出てくる固有名詞に、街なかから聞こえてくる雑談を盗み聞いているような刹那を感じて良くて、読んでいて賑やかな気持ちにもなります。
冬は夏より音が遠くまで届くといいます(二回目)。
いつもより街が静かな年末年始。たとえば、家族が寝た後に、パチリと目が覚めてしまった夜半に、起きそこねてしまったいつもより遅い朝に…。
スマホではなく本をひらいて、人の声を遠くに聞くように時間を過ごしたい一冊。
読んだ後には、しばらくぶりの旧友に、「これまでどうしてた?」なんて人生を聞いてみたくなるとも思うので、年賀状や新年の挨拶LINEなどで交友が再開するこの時期の読書にもうってつけだと思いますよ。
木村綾子
1980年生まれ。静岡県浜松市出身。明治大学政治経済学部卒業後、中央大学大学院にて太宰治を研究。10代から雑誌の読者モデルとして活動。現在は文筆業の他、ブックディレクション、イベントプランナーとして数々のプロジェクトを手掛ける。著書に『いまさら入門 太宰治』(講談社)、『太宰治と歩く文学散歩』(角川書店)、『太宰治のお伽草紙』(源)など。
2021年よりオンライン書店「COTOGOTOBOOKS(コトゴトブックス)」を、2024年より同名で出版社を立ち上げる。一冊目の書籍は、町田康初歌集『くるぶし』。
https://www.instagram.com/kimura_ayako/
https://cotogotobooks.stores.jp/
※該当書籍の取り扱いは各店舗へお問い合わせください
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1980年生まれ。静岡県浜松市出身。明治大学政治経済学部卒業後、中央大学大学院にて太宰治を研究。10代から雑誌の読者モデルとして活動。現在は文筆業の他、ブックディレクション、イベントプランナーとして数々のプロジェクトを手掛ける。著書に『いまさら入門 太宰治』(講談社)、『太宰治と歩く文学散歩』(角川書店)、『太宰治のお伽草紙』(源)など。
2021年よりオンライン書店「COTOGOTOBOOKS(コトゴトブックス)」を、2024年より同名で出版社を立ち上げる。一冊目の書籍は、町田康初歌集『くるぶし』。
https://www.instagram.com/kimura_ayako/
https://cotogotobooks.stores.jp/
※該当書籍の取り扱いは各店舗へお問い合わせください
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