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きょうは本屋に寄って帰ろう/Vol.20(選者:木村綾子さん)

2025.03.10

本を愛するあの人が、ルミネのシーズンテーマを切り口におすすめの本を紹介するこの企画。選者はオンライン書店&出版社「COTOGOTOBOOKS(コトゴトブックス)」の代表であり、文筆家でもある木村綾子さんです。
今回は、シーズンテーマである「Fusion of the Future -未来の美とリアリティの融合」の背景となった、ファッショントレンドとライフスタイルトレンドを表すキーワードから連想してもらいました。
1冊目は、バーチャル感やデジタルムード、スポーティー、光沢感などを取り入れたファッショントレンド「Minimal Innovation」から。2冊目は、幸福感を高めるテクノロジーや、環境保全や生態系保護につながるバイオテクノロジーが注目されるライフスタイルトレンド「デジタルの新たな可能性」から、木村さんが思い浮かべた本です。

『A LIGHT UN LIGHT』著:ANREALAGE、写真:奥山由之(パルコ出版)

アンリアレイジの服と出会ったとき、「未来を着てる」と大袈裟でなくそう思ったことを覚えています。

影が残る服。光を浴びるとカラフルな模様が浮き出る服。天地が逆転した服。写真に撮るとはじめて実態が分かる服。人間の身体そのものを裏切った、◯△□の服…。テクノロジーを味方に付けて、固定概念を楽しく揺さぶり続けるその発想。デザインされていなかったものを形にする着眼点。本書は、アンリアレイジのデザイナー・森永邦彦氏の思想と挑戦を、言葉と写真で追うことのできる一冊です。

〈100年以上変わっていない服づくりの「道具」を変えない限り、新しい服は生まれません〉と言ういっぽうで、〈テクノロジーは諸刃の剣。ファッションを確実に一歩前に進めるが、ただ、ファッションを置き去りにする脅威もある〉とも言葉を重ねます。

こういう思想がブランドを支えているからこそ、安心してアンリアレイジの冒険に袖を通すことができるのだと気付きます。アンリアレイジという装置があれば、日常と非日常を豊かに行き来できる。

『本心』著:平野啓一郎(文藝春秋)

ほんの少しの時間でも、死んだ人と再会することが出来たとしたら──。到底叶わぬ願いだったことが、そうではなくなる未来がもうそこまで来ているのかもしれない。だとしたら、私は願いを叶えるだろうか。その人が生涯隠し続けた事実や本音を知れたとして、私は満たされるだろうか。そのとき故人の尊厳は、どう守られる?
本書を読みながら、そんなことを考えていました。

物語の舞台は2040年代。ロスジェネ世代に生まれ、シングルマザーとして自分を育ててくれた母が急逝した。本当は“自由死”を望んでいた母の本心を探るべく、息子の朔也はテクノロジーを使って母を蘇らせることに。VF(ヴァーチャルフィギュア)の母との対話を重ねていく日々のなか、しかし朔也が知るのは母の本心ではなく、自らの出生を揺るがすような事実なのだった。

〈〈母〉の手には、確かに生きた人間の感触があり、体温があった〉

現実と仮想世界、AIができることと人間にのみできることの境目がますます曖昧になっていく現代社会において、人間にのみ担保されるもの、その豊かさについて改めて考えたくなる一冊。

木村綾子
1980年生まれ。静岡県浜松市出身。明治大学政治経済学部卒業後、中央大学大学院にて太宰治を研究。10代から雑誌の読者モデルとして活動。現在は文筆業の他、ブックディレクション、イベントプランナーとして数々のプロジェクトを手掛ける。著書に『いまさら入門 太宰治』(講談社)、『太宰治と歩く文学散歩』(角川書店)、『太宰治のお伽草紙』(源)など。
2021年よりオンライン書店「COTOGOTOBOOKS(コトゴトブックス)」を、2024年より同名で出版社を立ち上げる。一冊目の書籍は、町田康初歌集『くるぶし』。
https://www.instagram.com/kimura_ayako/
https://cotogotobooks.stores.jp/


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