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色彩のグラデーションで、普遍的な情緒や感情を表現したい

2025.03.07

デザイナー、そしてアーティストとして活動しているUESATSUさん。想像上の花をモチーフにしたグラフィックシリーズ《Imaginary Flowers》やELAIZA(池田エライザ)のデジタルシングル「META」のジャケットデザインなどを手がけ、国内外から注目されています。また、2024年秋と2025年春のルミネ・ニュウマン各館のニューショップとリニューアルショップを告知するキャンペーンのキービジュアルも担当。今回はUESATSUさんの創作活動や、作品の特徴のひとつであるグラデーション表現について伺いました。

PROFILE
UESATSU/デザイナー、グラフィックアーティスト
1998年、東京都生まれ。2022年に武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業後、現在は東京藝術大学修士課程デザイン科デザイン専攻に在籍。グラフィックにおいての表現方法の研究が趣味で、グラデーションを用いたグラフィックを多く制作している。
https://www.uesatsu.com/
https://www.instagram.com/_uesatsu/
 

グラデーションが印象的なUESATSUさんの作品。左:ELAIZAのデジタルシングル『META』のジャケット/右:想像上の花をイメージした《Imaginary Flowers》シリーズ。

行動力がいまの私をつくっている

―現在の活動について教えてください。

デザイナーとして主にグラフィックデザインのお仕事をさせていただくほか、作家として作品を発表しています。また、東京藝術大学大学院のデザイン専攻で、い草に着目した研究も進めていて。い草の繊維は直線的な形状をしているので、そのフォルムを「線」としてグラフィックの中に落とし込むなど、作品に生かす可能性を探っています。

国内のい草のほとんどは熊本県八代市で生産されており、農家さんのところに足を運んでお話を伺っているんですが、実際にお話を聞かないとわからないことも多いですね。現在は仕事も同時並行で行っているので、まだまだ時間が足りないです。いま大学は休学中なのですが、来年の卒業制作はい草を使ったものにしようかなと思案中です。

現在進めている研究の一環として、い草をグラデーション状に染色したもの。(染色協力:野口いぐさ)

―もともと絵を描かれるのが好きだったんですか?

小学生のときの将来の夢はデザイナーだったのですが、それに向けてなにかしていたわけではありませんでした。美術部でもなかったんです。

高校2年生になって進路を考えるなか、あらためて「私はなにがしたかったんだっけ?」と考えたときに、そういえば小さい頃から美術が得意だったなと思って。母は水墨画のアーティストだったこともあり、「美大、いいんじゃない?」と言ってくれました。当時は福井県の高校に通っていたのですが、福井には美術予備校がないんです。一番近いところで滋賀県の彦根でしたが、そこは東京の美術大学の対策をしていないんですよね。

それで高校3年生になる前の春休みに初めて東京の美術予備校に行ったら、周りのレベルが本当に高くておどろきました。いまの高校に行きながらだと難しいと思ったので、福井の高校を辞めたあと、高卒の資格だけ取って、東京でひとり暮らしを始めました。


―高校生でその行動力とは、すごくアグレッシブですね。

行動力はあるほうかもしれません。はじめて東京の予備校の春期講習会に行った次の日にはもう「高校はやめる」と言っていました。親も「じゃあ担任の先生に話をつけよう」と(笑)。高校3年生の始業式の日に、先生にやめる旨を伝えたところ、もう一度考え直すことをすすめられたのですが「やめます、すみません。このままここにいても厳しそうなんです」と言ってそのままひとりで引越しました。東京の美術予備校で朝から夕方まで浪人生に混ざって練習し、終わったら学科の勉強をして、アルバイトして……という受験生生活でした。実際のところちゃんとした高校生活は2年間でした。いま思うと、親の理解があったからこそできたことだとは思います。

愛読書は浮世絵師・歌川広重の大判の作品集。「構図も勉強になりますし、グラデーションや質感の表現は知らず知らずのうちに影響を受けていると思います」とUESATSUさん。

グラデーションは人生にもつながっている

―お仕事はグラフィックが中心なのでしょうか。

そうですね。作品を掲載しているSNSをカタログのように見ていただいて、そちらからお仕事をご依頼いただくことが多いです。

ジャンルとしては、ファッションも多いですが、一番は音楽です。音楽の情緒的な部分や言葉で表す感情が、私の作品に多いグラデーション表現と相性がよいのかなと思います。


―グラデーション表現はUESATSUさんの特徴のひとつですよね。最初にグラデーションを意識的に使ったのはいつだったんですか?

美術予備校に通っていたころでしょうか。絵具で異なる色を少しずつ混ぜていくという、アナログかつ細かいことをしていました。コンセプチュアルなものが描きたいというよりは、単純にそういう地道な作業が好きだったというところが大きいですね。


―グラデーションに惹かれた理由はどういった点なんでしょうか?

グラデーションはさまざまなものの“移り変わり”を表現する際に使われます。それと同時に、感情や情緒を感じさせてくれるものだなと思っているんです。

たとえば毎日見る空も、きれいな夕焼けのグラデーションになっていたら「きれいだな」と思わず写真を撮ってしまう。文化的背景にかかわらず、世界中に共通するようなその情緒を、色の変化で表すことができるのがおもしろいなと思ったんです。もっといえば、色だけでなく、季節の移ろいや植物の成長、人間の感情の起伏など、大きく捉えるとすべての物事がグラデーションのようなものなのかなって。そう考えると、グラデーションは人生にもつながってくると感じています。

居心地のよい自宅兼仕事場で作業。インテリアの一つひとつにもこだわりが光る。

ハイブリッドもいいし、ピュアもいい

―UESATSUさんはデザイナーとアーティスト、学生と社会人といった「ふたつの軸」を持っていると思うのですが、なにか意識されていることはありますか?

特に意識したことはないんです。多分、興味があることや好きなこと、やりたいことがあったら、すぐに行動するタイプなんですよね。興味があることをどんどんやっていったらこうなっていたという側面が強いかもしれません。

ただ、軸がふたつあることは、強みかもしれませんが、「2軸の人が1軸の人にかなうわけがない」と思ってしまっている節があって、コンプレックスでもあるんです。
アートとデザイン、両方やっていても、一方ではアート一本で突き詰めていく人たちもいるわけですよね。1軸の人と比べると、2軸の人は使える時間が単純に二分割になってしまう。だからこそ、1軸の人たち以上に根気強く頑張っていかなければ、同じ土俵に立つ資格がないと考えています。


―平面と立体、アナログとデジタルなど、表現するうえで相反するものを掛け合わせたり、使い分けたりということはどのようにやられているんですか?

作品のなかにときどき立体っぽい、3Dっぽい質感を取り入れているのでご指摘いただくことはあるのですが、考え方としてはあまり変わらないように思います。
私の場合、平面と立体、アナログとデジタルのふたつのものを掛け合わせるというよりは、グラデーションという軸があって、そのなかに表現手法がいくつかあるイメージです。


―ルミネ・ニュウマンは2025春夏に「HYBRID SWITCHING -ハイブリッドを楽しもう-」というシーズンビジョンを掲げています。「ハイブリッド」、つまり異なる価値観を組み合わせて新しいものをつくりあげることは、どのような魅力やパワーが生み出すと思いますか?

いまは価値あるものがすでに多くあり、それら組み合わせるだけでもおもしろいものを生み出すことができる。そういう意味ではとてもいい時代だと思います。私たちはまさにハイブリッドに生かされていると感じますね。

たとえばハイブリッド車はエンジンと電気モーターを併用することで新たな価値が生まれています。すでにある良い性能を組み合わせてさらに好都合なものにする。私たちが豊かさを追求し続ける場合、ハイブリッドは必然なのかもしれません。でも、「ハイブリッド」って便利で先進的なのに、ピュアにはどこか勝てない部分もある気がして。なので、ピュアの代替品・改良品ではなく、あくまでハイブリッドという選択肢であるということ。「ピュア」と肩を並べるというよりは、別世界での価値と捉える方がいいかもしれません。ハイブリッドもいいし、ピュアもいいのだと。

UESATSUさんが手がけた2025年春夏のニューショップ施策のキービジュアル(左)と、それを用いてつくられたポスター。

まだ知らない、さまざまな世界の魅力や価値観に触れたい

―UESATSUさんは2024年の秋に続き、2025年春のルミネ・ニュウマンのニューショップとリニューアルショップを告知するキャンペーンのキービジュアルを担当されました。「Fusion of the Future -未来の美とリアリティの融合」というルミネ・ニュウマンのシーズンテーマをどのように解釈し、デザインに落とし込んでいったのでしょうか?

未来を想像してみても、思った通りにいくことはほとんどありません。大切なのは未来につながる「いま」であって、そのいまをちょっとだけよくする美しさや豊かさは、そこら中にちらばっているという解釈をしました。

そのうえで、ルミネにお買い物に来るお客さまが、いまより少し先の未来を豊かにしたり、美しくしたり、幸せな気持ちになったりしたらいいなという思いを込めてデザインしました。


―デザインのポイントについてお聞かせください。

例としてご提案いただいたモチーフを自分なりに噛み砕き、自主制作の作品よりは少し明るめの印象に仕上げました。今回のキービジュアルはポスターやPOPなどのフレームや背景として使用されるので、そこに載る文字やコンテンツを彩ることができるように、さらにルミネの客層に合わせて、ちょっと幸福感が高めな配色にしました。

実は、パターン(図案)のデザインはあまりやったことがなかったんです。高揚感につながるようなモチーフのちりばめ方や、どのような切り取り方をしても美しく見えるといった工夫が必要だと思いました。


―今後やってみたいことや、つくってみたいものについて教えてください。

大学院を卒業したらなにをするの?とよく聞かれるのですが、ないといえばないんです。強いていえば、自分がまだ知らない、立ち入ったことがないいろんな世界の魅力や価値観を知ったり、見たり、経験できたらいいですね。それを作品にも反映していきたいです。



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