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アートの現場から生まれる廃材を再生、循環させる「副産物産店」

2025.04.28

アートを制作するうえでやむを得ず出てしまう廃材を「副産物」と捉え、回収して加工し、新たな作品やプロダクトにアップサイクル。「副産物産店」は美術家として活動する矢津吉隆さんと山田毅さんが2017年にスタートしたプロジェクトです。活動開始から約8年を経た彼らが今、感じていることとは? 2人の拠点である京都を訪ねました。

ゴミ捨て場は宝の山のようなもの

京都を拠点にアーティストとして活動する矢津吉隆さんと山田毅さん。2人が「副産物産店」を立ち上げたのは、彼らの母校である京都市立芸術大学のキャンパスが移転するにあたり、移転後はどんな設備が必要かなど、建築プランにまつわるリサーチを行ったことがきっかけだった。

「芸術大学の学生にとって、ゴミ捨て場は宝の山のようなもの。誰かが捨てたもののなかから使えそうなものが見つかることも珍しくありません。それならば、制作の過程で出てくる廃材を集めて保管し、自由に再利用できる『資材循環センター』が大学内にあったらいいよね、という案が出たんです」(山田さん)

「その施設自体は予算や人材が足りず、残念ながら実現できませんでした。でも、せっかくのいいアイデアなので、僕たち2人のプロジェクトとして進めていこうと」(矢津さん)

それが副産物産店の始まり。絵画や彫刻、陶芸など、さまざまなアートの制作現場から出る廃材を副産物として収集し、アート作品やプロダクトに昇華して、展覧会やオンラインショップ、自動販売機などで発表、販売するというのが基本の枠組みだ。

後述の「BUYBYPRODUCTS Circulation Studio」で「副産物」を積み上げる矢津吉隆さん(左)、山田毅さん(右)。京都芸術大学では矢津さんは専任講師、山田さんは非常勤講師を務める

不要になったファッションアイテムも「副産物」

昨年新たに誕生したプロダクトで特に人気があるのが、「ROOFBASE CHAIR」という椅子。座面に平面作品の副産物を採用し、脚部分には建築家の中村紀章氏が考案した屋根馬(=アンテナを屋根に固定するための土台)を使用している。

「平面作品の廃材の活用法として、椅子の天板にしたいという思いはあったものの、脚の部分は僕たちにはつくれないので、どうしたものかと思っていました。そうしたら、中村さんが『屋根馬を使って椅子をつくれるよ』と。昔は屋根馬って建物の屋根にアンテナを設置するために必要だったんですが、地上デジタル放送が始まってからは不要になっちゃったんです。いわば文化から生まれた廃品である屋根馬を、中村さんはいろんな建築プロジェクトに活用していて、それで今回、コラボレーションすることになりました」(山田さん)

ときには企業と協業することも。昨年開催されたルミネ アートフェア「LUMINE ART FAIR –My 1_st Collection Vol.3–」に前述のROOFBASE CHAIRで出展したのをきっかけに、ルミネの副産物を活用するという新たなアイデアが浮上。不要になったファッションアイテムを買い取り・回収してリユースやリサイクルを行うルミネの資源循環サービス「anewloop」で集めた服や、ルミネのショーウィンドウなどの館内装飾で使用したドライフラワーなどと絡めたアート作品を制作することに。完成した作品《サステナブル・ケアン》は、今年1月に横浜で開催された展示会「SCビジネスフェア2025」で発表された。

「ケアンとは、人によって積み上げられた積み石のこと。回収した衣類と装飾用のドライフラワーの残りなどを積み石のように、僕たち2人が交互に積み重ねていった作品です。現代社会の不安定さと未来への希望、願いを表現しています」(山田さん)

ルミネの資源循環サービス「anewloop」などとコラボレーションし、ルミネの「副産物」を積み重ねた、ツリー形のアート作品《サステナブル・ケアン》。画像提供=副産物産店

活動を始めてから、大学内のゴミの捨て方に変化が

副産物産店の拠点は現在2カ所あり、1カ所は京都の北山の山間エリアにある「北山ホールセンター」。かつて林業用の倉庫だった木造の古い建物を副産物産店のプロデュースにより利活用したもので、建築設計チームや古道具店の店主といったさまざまな入居メンバーが集う共同工房となっている。

もう1カ所は、京都芸術大学にある教育プログラムつきの造形技術支援工房「ウルトラファクトリー」内の「BUYBYPRODUCTS Circulation Studio」。ここでは学生向けのプログラムの一環として、大学内で集めた「副産物」をもとに新たな素材やプロダクトを開発する「BUYBYPRODUCTSプロジェクト」も日々行っている。

「この学生向けのプロジェクトがスタートしたのは2022年なのですが、丸3年経った今感じているのは、大学側のゴミの管理の仕方や学生のゴミの捨て方が大幅に変わったということ。僕たちの活動と並行して、大学がゴミを捨てる曜日などのルールを自治体のように設定するようになり、独自の捨て方マニュアルができたんです。すると、学生たちとしてもおのずとゴミに意識が向くようになり、だったら循環に回そうという機運が醸成されてきているのを感じます。BUYBYPRODUCTSプロジェクトには毎年20人ほどの学生が集まるのですが、この人数はプロジェクトとしては多いほう。循環に興味をもっている学生は確実に増えていますね」(矢津さん)

京都芸術大学での「BUYBYPRODUCTSプロジェクト」では、不要になった資材を回収する「みどりの箱」を学内に設置する試みも

誰かと一緒につくることで新たな自分に出会う

SDGsやサーキュラーエコノミー(循環経済)という点から注目されやすい副産物産店だが、活動の結果としてゴミが減ることを望んではいるものの、ゴミの量を減らすことを目的に始めた取り組みではない。スタート地点はあくまでも矢津さんと山田さんの「モノのもつ魅力を引き出し、それまでとは別の価値があるものとして提案する」というクリエイティブな視点にある。

「僕たちのテーマは、コミュニケーションなんです。副産物産店では『副産物』という人間がつくったものからこぼれ落ちたものを素材に、2人でセッションをしながら作品やプロダクトをつくっていく。京都芸術大学で学生たちと何かをつくるときも、誰でもできるような簡単な手法で、みんなで手を動かしながら進めています。そんなふうに『つくる』という行為を共有することに興味があるし、その面白さをみんなにシェアしていきたいと考えています」(矢津さん)

「副産物」が入った小箱を販売する自動販売機。現在はイベントなどの際に設置

前述の《サステナブル・ケアン》も、素材を2人が交互に選んで順番に積み重ねていくという、まさに即興のセッションによって完成したものだ。2人はそれぞれアーティストとしても活動しているが、個人でモノづくりをするときと副産物産店として制作するときとで大きく違うのが、相手のコンセンサスを取らなくてはならない点だという。

「自分がやりたいことを純粋にアウトプットするよりも、この状況や環境のなかで何が最適なのかを考えていくことが大事。普段とは別の側面から思考する機会になるので、自分の考え方に幅が出てきているのを感じますし、そのつど新しい自分に出会っているような感覚はありますね」(矢津さん)

「そもそも素材自体がたまたま出合った廃材だし、制作の仕方も即興的であり、コラージュ的。人やモノとの関係性のなかで流動的に動いていくのが副産物産店なんです。僕たちも意固地にならずに、そのつど変容していくことを楽しんでいます」(山田さん)

人間が生み出したものの背景には、必ず誰かの生きざまや自分の知らない世界が隠れている。私たちも副産物産店の作品やプロダクトとの一期一会から、新しい自分に出会えるかもしれない。


■副産物産店
https://byproducts.thebase.in/

※本記事は2025年4月28日に『&Illuminate』に掲載された記事を再編集しております。
※情報は記事公開時点のもので、変更になることがございます。

Text: Kaori Shimura, Photograph: Ikuko Hirose, Edit: Sayuri Kobayashi

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